此元和津也を堪能 ─『オッドタクシー』『セトウツミ』から新作映画『ホウセンカ』まで

「オッドタクシーが刺さりすぎて、此元和津也(このもと かづや)作品をもっと深掘りしたい」「笑えるのにヒリつく“会話劇サスペンス”を一気に味わえる順番が知りたい」そんな悩みにハマった筆者が、漫画・アニメ・映画の垣根を超えて“此元節”を堪能できる3+1本を厳選しました。
『セトウツミ』――「放課後、ただしゃべるだけ」で世界をひっくり返す
媒体 | 原作:漫画(全8巻)、実写映画(2016)・ドラマ(2017) |
テーマ | 退屈を“言葉遊び”で切り取る青春 |
原作・脚本 | 此元和津也(映画脚本も担当) |
映画監督 | 大森立嗣 |
出演(映画) | 池松壮亮・菅田将暉・中条あやみ |
作品概要
大阪の川べりで、頭脳派・内海と天然ボケの瀬戸が放課後に“しゃべるだけ”。恋の相談、哲学的屁理屈、母親のおかず論争──たった2人の会話が1コマずつ炸裂し、読者の腹筋と心を不意打ちする。
映画版の脚本も此元自身が担当。「原作から“オチ”を1か所だけ隠し味に変えた」とコメントし、原作ファンをザワつかせた。
撮影は実在する淀川河川敷で敢えて“通行人を排除しない”ゲリラ方式。背景に映り込む自転車や犬がリアリティを強化している。
“動きの少なさ”が逆に映像的快感を生む稀有な例。言葉が銃弾のように飛び交い、観ている側の脳内にもアドレナリンが走る。漫才と哲学が同居する会話劇の原点として必見です。
内海と瀬戸が交わす何気ないやり取りには、高校時代に感じた微妙な居心地の悪さや友情のあたたかさが詰まっています。此元和津也が描く会話劇の奥深さに、笑いながらも心がキュッとなります。
『オッドタクシー』――タクシーの密室から都市の闇を透視する
媒体 | TVアニメ(全13話・2021)/劇場版(2022) |
テーマ | 都会の孤独、情報バズの暴走 |
原作 | P.I.C.S. × 此元和津也 |
脚本 | 此元和津也 |
監督 | 木下麦 |
出演 | 花江夏樹・飯田里穂・木村良平 |
評判 | Crunchyroll Awards 最優秀監督賞 |
作品概要
寡黙なタクシー運転手・小戸川と訳あり乗客たちの会話が、失踪JK事件と地下アイドル業界の闇をつなぐパズルとなり、都市の“裏”を炙り出す。伏線がミルフィーユ状に重なり、最終話で一気に崩壊する爽快感は近年屈指。
キャラを動物にしたのは「30人超キャラを瞬時に識別させるため」と此元案。
劇中SNS《MYSTERIOUS KISS》は実在し、放送と同時に“ヒント”を投稿。考察勢が深夜に通知を張っていた。
気だるいテンポに身を委ねる物語は、派手な展開やアクションに慣れた人には最初こそ退屈に映るかもしれません。ところが、小戸川の何げない日常がいつの間にか自分の日常と重なり、「この先、彼はどうなるのだろう?」と先を追わずにはいられなくなります。そうして迎えた最終話で伏線が一気に回収される瞬間、これまでに味わったことのない高揚感が押し寄せてきました。1周目は謎解き、2周目は伏線チェック、3周目は小戸川の孤独に号泣。観るたびテーマが増殖する化け物アニメ。
『ブラック校則』――此元脚本が炸裂する“言葉×青春×校則革命”
媒体 | 映画・ドラマ・Hulu番外編(2019) |
テーマ | 閉塞的校則への内側からの革命 |
脚本 | 此元和津也 |
映画監督 | 菅原伸太郎 |
出演 | 佐藤勝利・髙橋海人・モトーラ世理奈 |
作品概要
“眉毛検査”“前髪3cm”など理不尽だらけの黒校則に立ち向かう、冴えない男子高校生2人。彼らは“ことば”だけを武器に校則と権力を裏から切り崩す計画を立てる──。此元お得意の“鋭利な会話”と“やりすぎ寸前の笑い”が、学園ドラマを異質なエンタメへ昇華した。
エキストラに本物の高校生を大量起用し、休み時間の“リアルな間”を脚本に反映。
Hulu番外編は此元が“さらなる規制違反ネタ”を書き下ろし、配信限定のエッジを解禁。
主人公たちの痛快な言葉の応酬に引き込まれつつも、現実の校則や社会ルールの不合理さに思わず共感し、自分の学生時代を重ね合わせてしまいました。此元脚本が冴え渡り、青春の爽やかさと皮肉の効いた笑いが見事に調和しています。
[番外]新作映画『ホウセンカ』——木下麦と再タッグ、現在進行形の“此元世界”に期待
- 形式:オリジナル劇場アニメ(制作中)
- 原作・脚本:此元和津也
- 監督・キャラクターデザイン:木下麦
- 制作:スタジオ CLAP
現在制作中の劇場アニメ『ホウセンカ』は、『オッドタクシー』の黄金タッグ、此元和津也と木下麦が再びタッグを組む期待作。夜の花屋と秘密基地を中心にした物語で、都市の孤独と人間模様を鮮やかに描くとされています。アヌシー映画祭2024で一部映像が公開され、CLAPスタジオによる美しい作画が注目されています。上映が楽しみですね。